医師の指導で「安心」してできるダイエット法・・・「読む診療所 2004,秋季号」より
ダイエットを医師の立場から、お話しすることにします。話は単純で、わかりやすい内容となる予定です。
ダイエットは健康への案内役と言えます。
私の考える健康とは、各個人の本来の美しさを手に入れることと考えています。血庄は、110/65以下が健康な人の血圧と思っています。体脂肪率は、男性なら15%以下、女性では20%以下です。
20代の最も美しかったときの容姿を維持することが、究極の健康状態と言えます。老化と肥満は、そのまま病的状態を示しているのではないかと思っています。
健康な人が皆、若く見えることには異存はないでしょう。
医師としての立場から、健康を手に入れるた
めに簡単にできることとして、次の3つのことを勧めています。
●たばこを吸わない
●ダイエットをする
●塩分を摂り過ぎない
ここでは、2番目のダイエットの話を進めているわけです。
私の勧めるダイエット法(炭水化物制限法)
私がこれから述べるダイエットとは、無駄な体脂肪を減らすことです。
体脂肪を減らすためには、脂肪をエネルギー源として、燃焼しなければなりません。
では、どうやって燃焼するのでしょうか。
筋肉運動のエネルギー源として燃焼させればいいのです。
やはり運動しなければならないのでしょうか。運動しなくても燃焼させる方法があるのです。実は、皆さんの体のなかで、生きている限り、かなりの筋肉運動が行われていることに気づいてください。心臓?
そうです!心筋は絶えず収縮と弛緩を繰り返し、全身に血液を送っています。
心筋の運動の燃料として、脂肪を燃焼できればいいことに気がつきますね。
どうやって、心筋に脂肪を燃焼されることができるかという話に移していきます。
私は放射線科医です。放射線科医は、いろいろな画像診断を行います。
心筋の働きを調べる検査に、心筋シンチがあります。
”シンチ”という検査は、放射性同位元素で標識した薬剤を患者さんに投与して、目標の臓器に集まらせて、そこから発生するガンマ線を体外に構えたカメラで検出して、画像をつくって診断する検査です。
心筋の検査に使う薬はいくつかありますが、そのなかで、ブドウ糖をアイソトープで標識した薬(A)と、脂肪酸を標識した薬(B)があります。
この2つの薬には興味深い性質があります。
「A」は、いつ注射しても心筋に取り込まれます。
「B」を心筋に取り込ませるには、ある条件が必要です。
脂肪酸を標識した薬(B)を使う検査では、患者さんは、空腹状態でなければなりません。つまり、ブドウ糖が血中に足りない状態であることが必要です。
筋肉運動の燃料としては、使用される優先順位があるのです。
絶対的な優先権がブドウ糖にあり、胎肪酸は簡単には使用してもらえません。
ブドウ糖が血中に不足しているときに初めて、脂肪酸が燃料として使用されるのです。ブドウ糖が常に血中に十分にあると、永遠に脂肪酸が燃料として使用されないばかりか、有り余るブドウ糖は、肝臓に運ばれて、中性脂肪に変えられて、その後、体中に蓄えられていきます。これが肥満です。
これをダイエットに応用するわけです。
ダイエット法は、血中ブドウ塘が、常に不足している状態を維持すればいいことを理解していただけると思います。
そうすれば、運動なんかしなくても、基礎代謝と言われる部分で脂肪酸を燃焼させることができます。
もうおわかりと思いますが、炭水化物、糖質、甘いものを食べなければ、ダイエットができるのです。
逆に炭水化物、糖質、甘いものを食べていたのでは、寝ている間に中性脂肪が蓄えられていくので、昼間にどれだけ運動して脂肪を減らしても、寝ている間にもっと脂肪が増えてしまうことさえあるのです。
日常診療において、患者さんにダイエットを指示するときは、肉、魚介類、豆類、乳製品、野菜、油などは好きなだけ食べてよいから、炭水化物、糖質、甘いものを食べないようにと言っています。特に夕食においては、絶対守ってくださいと言います。寝ている間には、運動できませんからね。
ブドウ糖がどうしても必要な場所は、脳だけです。脳に必要なブドウ塘は、肉、魚介類、豆類、乳製品、野菜、油などに含まれる量でも十分なのです。
筋肉は脂肪酸を燃料として使用できるので、炭水化物、糖質、甘いものをまったく食べないつもりでも、元気に生きていけます。通常1ヶ月に2.5kgの割合で、減量可能です。
日常臨床への応用例
次は、日常臨床への応用例です。
炭水化物制限法の驚くべき有効例として、下にいくつかお示しします。
@糖尿病
糖尿病とはどんな病気でしょうか。通常、いつも血糖値が高い状態にあります。なぜでしょうか?
それは、血中のブドウ糖を利用する効率が悪いからです。血中のブドウ糖を減らすことが苦手な体なのだと思ってください。
どうしたらいいのでしょうか?
小学生に質問すると、おそらく何人かは、「血中に入るブドウ塘を減らせばいいんじゃないの?」と正解を教えてくれるはずです。
血中に入るブドウ糖を減らす最も確実な方法は、炭水化物、糖質、甘いものを食べないことです。肉、魚介類、豆類、乳製品、野菜、油などはバランスよく好きなだけ食べてよいからと言います。
それを守ってくれれば、4カ月もあれぼ、糖尿病は完治します。
HgbAlc(5.8以下正常)という塘尿病の指標があります。
11.6→5.8(4カ月後)その後1年後でも5.6〜5.8
9.6→5.5(3カ月後)
というような結果が、このダイエット法により得られています。
A不眠症
言うまでもなく、不眠症は、夜ぐっすり眠れないわけです。不眠症に悩む人は多く、その苦しみは本人にしかわからないもののようです。何種類もの睡眠薬を飲んでいる人もいます。あまり単純化した話にすると不眠症に悩む方にお叱りを受けそうですが、あえて単純な話にさせてください。
熟睡しているときは、大脳は働いていません。不眠症に悩む人の場合は、布団に入って横になっていても大脳が働いているはずです。大脳が働きにくい状態をつくったらどうでしょうか?大脳が働くときには、ブドウ糖が必要です。
ブドウ糖が不足すると、大脳は働きにくくなると予想されます。不眠症に悩む人は、このダイエット法を実践してみる価値はあるはずです。食後寝る前に、甘いものを食べていてはいけないのかもしれませんよ。
不眠症を訴える方には、薬を増やさずに、この話をしていますが、実際不眠症が改善したという例は多いのです。
B脂肪肝
生活習慣病として、中性脂肪高値、脂肪肝を言われる人は多いようです。
このダイエット法を行ってもらいますと、血液データは、善玉コレステロールの上昇を伴い、1〜2週間後から大きく改善してきます。
Cがん
最近では、がん検診として、PET(Positron Emission Tomography:陽電子放出断層撮影)検査が有効であるということが広く知られるようになってきました。
この検査では、がんの種類によらず、がん病巣の検出に優れていることが知られています。このとき使用されている薬剤は、ブドウ糖とほぽ同じ動きをします。正常では、大脳に強く集積し、そのはか心筋に強く取り込まれます。
そのほかに不自然に強く取り込まれる場所があると、そこが「がん」である可能性が出てきます。
ここで注目すべきは、がんはその種類によらず、ブドウ糖を強く取り込んで利用しているということです。ブドウ糖は、がんの餌なのかもしれないのです。夜寝ているときには、大脳へのブドウ糖の取り込みは低下しているでしょう。その分、がんへの取り込みが増えているのかもしれません。
寝ている間に、がんはすくすくと成長しているかもしれません。このような可能性を考えると、このダイエットを行えば、がんへのブドウ糖の取り込みほ、大きく低下させられるかもしれないのです。そして、それががんの成長を遅らせることにつながるかもしれないと思いませんか?
実際の診療に、このダイエット法を導入しているのは、最近になってからですが、非常に好ましい結果が得られていると思われる症例があります。
腫瘍マーカーの動きだけですが、きれいに右肩下がりに低下している例が2例(乳がん再発例と前立腺がん+糖尿病例)あって、このうち後者の男性患者では、手術、放射線、ホルモン療法いずれもまだ行っていないのです。本人との話し合いで、腫瘍マーカーが下がらなくなったら、ホルモン療法を始めることになっていますが、未だに、治療を開始できない状態なのです。
医師の立場からこのダイエット法を考えますと、病気と珍断されない人が本来の美しい健康状態を手に入れるのに役立つぱかりか、病的状態と診断されている人々の多くが第一選択として行うべき”治療法”となる可能性すら感じています。
|