HOME 特集 今月の健康 予防医学 温泉で健康



その1)治りにくい湿疹・皮膚炎

皮膚科を受診する患者さんの症状でもっとも多いのが、「かゆみを伴うブツブツ」。この湿疹・皮膚炎には、丘疹(皮膚が盛りあがる)や水疱(水がたまる)、膿疱(膿がたまる)、あるいは痂皮(かさぶた)や粉を吹いたようになるものまでさまぎまな症状があり、衣類・寝具、食物、気候、化学物質などの皮膚への刺激や、精神的ストレスなどによって誘引される。なかでも、アトピー性皮膚炎、かゆみのある湿疹を主病変とするじんましん、接触皮膚炎は罹患患者が多いことで知られているが、これらは治りにくい皮膚病の代表でもある。



アトピー性皮膚炎

●症状
肌に合わない衣類や寝具を身につけた時だけでなく、お風呂に入ったり、布団にもぐりこんだりして体が温められると急にかゆみが生じることが多い。また、冬の乾燥や夏の汗は、防御機構が低下している肌を刺激するので、かゆみが強くなる。このように季節によってかゆみの程度が異なるのもアトビー性皮膚炎の特徴。乳幼児がかゆみに我慢できず、皮膚をかき壊して傷だらけになることも少なくない。受験期の高校生や就職活動中の大学生、両親の離婚といった家庭問題などでストレスのある小学生などの場合、重症になることが多い。
発疹の症状は年代によって異なる。乳児期は、目や口の周辺や頬、額などに赤いポツポツや水疱ができ、首やひじ、ひざ、手首などの汗や汚れがたまりやすい部分が赤くジユクジユクする。さらに小児期になると、顔よりも関節部分や体部の発疹がひどくなる。体幹はジユクジユクの湿疹様ではなく、皮膚が粉を吹いたように乾燥してくるのが特徴。関節の裏側の皮膚は赤く厚くゴワゴワとなり(苔癬化)、耳の後ろなどには耳切れができる。思春期以降の発疹は、顔や胸、背中、ひじのくぼみなど上半身に多く見られ、特に、額、頬から首にかけて赤くなったり、色素沈着をきたす(ダーティースキン)。

●原因
乳児期は卵や牛乳などの食物が原因になることが多く、また発汗や皮膚の汚れも皮膚を刺激して発疹を悪化させやすい。幼児期では、ハウスダスト、ダニ、カピなどの生活環境が、思春期になると、過労や心身のストレスなどが原因として生じる。人間関係の強いストレスが加わると、途端に悪化する人も少なくない。

●治療
アトピー性皮膚炎の人は皮膚の表面(角層)の油(セラミド)が少なく乾燥する。この乾燥を改善することが皮膚のかゆみを抑え、湿疹の発生を予防するため、尿素軟膏やセラミド入りロ−ション、ワセリンやヘパリン類似物質入りクリームなどの保湿剤の使用が大切である。また、炎症を抑え、かゆみを鎮める薬物治療も必要になる。
皮膚の炎症を抑える塗り薬としてステロイド剤とタクロリムス軟膏がある。ステロイド剤に関しては、皮膚が薄くなり毛細血管が赤く浮き出るなど特有の副作用を恐れて、塗る量を減らしたり、ちょっと症状が改善するとやめたりする人がいるが、炎症がぶり返しやすくなるので注意が必要。医師の指示のもと、適量を健康な皮膚と同じ柔らかさになるまで塗ることが大切だ。一方、タクロリムス軟膏は顔の発疹や赤ら顔の症状に用いられる。ホルモン剤ではないので副作用は少ないが、1日量が10g以下と制限されている。注意書をよく守って使用することが不可欠だ。そのほか、かゆみが強い時には、かゆみを引き起こす活性物質のヒスタミンを抑える抗ヒスタミン剤、抗アレルギー薬が用いられる。

●日常の注意
皮膚炎を完全に治すというよりは、日常生活に差し障りがない程度にすることが治療の目的となる。その治療法を補助するためにも、日常では、室内をまめに拭き掃除して換気を良くし、ダニやほこりを減らすことを心がけよう。皮膚に接触する衣類や寝具なども化学繊維や羊毛は避け、木綿のこざっぱりした物を使用する。合併症として細菌感染やウイルス感染を起こしやすいので、毎日入浴して汗や汚れを落として皮膚の清潔を保つ。また、皮膚の乾燥を防ぐために保湿剤を使用する。この保湿剤は、皮膚に適した使用感のよいものを選ぶと良い。




じんましん

●症状
「食べ物や薬にあたってじんましんになった」というようなアレルギー性のものも少なくないが、それ以上に多いのが、大気の汚れや気温の変化などの環境因子や化学的・物理的刺激、精神的ストレスなどを原因とする心因性の非アレルギー性じんましんである。
突然にかゆみを伴い、皮膚が赤くみみずばれ(膨疹)のようになる。この症状はふつう1時間から長くても1日で消えていくが、出たり消えたりを繰り返す。膨疹の大きさや腫れ、かゆみの程度はさまざまで、地図状に広がることもある。また、症状が重いと唇やのどの粘膜、あるいは胃腸の粘膜まで腫れる。なお、1〜2日で治る一遇性のじんましんを急性じんましん、1カ月以上、出たり消えたりするじんましんを慢性じんましんという。

●原因
食物(牛乳や鶏肉、卵、青魚、エビ、カニ、貝、そば、ビール、麦、大豆なと)や薬剤(ピリン系薬剤、ペニシリン系薬剤、アセチルサルチル酸製剤など)、虫刺され、感染(細菌、ウイルス、真菌)などのほか、精神的ストレスや、大気の汚れ・気温の変化なとの環境的要因、時計バンドのような接触による機械的刺激など、さまざまなものに誘引され発症する。原因物に触れてできる「接触じんましん」、皮膚をかくとできる「人工じんましん」、冷たい物に触れるとできる「寒冷じんましん」、温水や温風でできる「温熱じんましん」、汗をかくとできる「コリン性じんましん」、日光にあたるとできる「日光じんましん」などと分類することもある。
アレルギー性のじんましんは、皮膚の肥満細胞の細胞膜上で抗体・抗原反応が起こることにより発症する。一方、非アレルギー性のものでは直接的な肥満細胞への刺激によりヒスタミンが遊離し、血管拡張による血漿成分が流出して、神経を刺激するために起こる。それ以外にも、発汗する時に交感神経の末端からアセチルコリンが遊離したり、最近の研究では、精神的ストレスなどで、神経末端から神経ペプチドという物質が遊離するなどして発症することが明らかになっている。
患者の多くにはlg抗体を産生しやすい要因が見られることから、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎などの疾患にかかりやすい。

●治療
じんましんの診断はすぐにできるが、その原因を探るのは難しい。たとえば、「さばを食べると、じんましんになる」というのなら、さばを避ければ解決するように思えるが、実際には、なかなかそう簡単にはいかないもの。複数の要因が絡みあって発症していることが多い。
そのため、治療としては症状を抑える薬物療法が主となる。具体的には、かゆみの原因であるヒスタミンを抑える抗ヒスタミン剤の服用が中心。慢性じんましんの場合は、じんましんが治まってもその後2週間近く服用して様子をみながら少しずつ量を減らしていく。医師の指示を守り、自分勝手に服用をやめないようにしよう。

●日常の注意
深酒、睡眠不足、過労、ストレスなど、じんましんを悪化させるような習慣を改め、規則正しい生活を送ることが大切。一度、自分の生活を振り返り、行動を書き出し、チェックしてみると、いかに皮膚に悪い生活を送っているかがわかるだろう。




接触皮膚炎

●症状
最近、増えている皮膚炎の1つ。皮膚の外部からの化学物質に接触することにより、発赤、丘疹、水疱になったりするもので、かゆみや痛みを伴う。刺激物質に触れて引き起こされる刺激性接触皮膚炎と、特定の物質に対し、その人にだけ起こるアレルギー性の接触皮膚炎がある。

●原因
刺激性の接触皮膚炎は脱毛クリーム、パーマ液、洗剤・石けん、消毒薬などの強い化学物質により引き起こされることが多い。防御機構が弱まっている皮膚の場合、弱い刺激でも繰り返し刺激を受けると発症することもある。一方、アレルギー性皮膚炎は、装飾品や歯治療に使われるコバルト、ニッケル、金などの金属、ハゼノキ、ツタウルシ、ブリムラオブコニカなどの植物、化粧品の香料や防腐剤、下着のゴムなどを原因として発症する。

●治療
皮膚炎が生じた状況や部位などを考えたうえで、バッチテストを行って原因をはっきりさせた後、治療が開始される。原因が判明したら、原因物質に触れないように日常生活で注意するほか、炎症を抑えるために塗り薬のステロイド剤を使用する。かゆみが強い時は抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤を、重症の場合はステロイド剤を用いることもある。

●日常の注意
原因物質が含まれるものの使用は控えるようにしよう。新しい製品を使う時には説明書をよく見て、含有するものをチェックすると良い。




主婦湿疹

●症状
洗剤を頻繁に使って掃除、洗濯や、食器洗いをしている主婦に多く見られる湿疹。調理師、美容師、医療従事者など、洗剤を使用する職業に従事する人にも発症しやすい。
手指の乾燥、荒れ、皮膚の亀裂のほか、水疱ができたり、ただれたりすることがある。強いかゆみを伴うもの、強い痛みを伴うもの、痛がゆいものもある。水仕事は日常の作業なので、なかなか治りにくい。重症になると、指紋が消えてしまうこともある。

●原因
洗剤の絶え間ない刺激により、皮膚の防御機構である皮脂膜が破壊され、皮膚が乾燥しているところに、さらに刺激が加わることで、角層が障害を受け発症する。防御機構が低下すると、弱い刺激に対しても反応するようになるため、さらに悪化していく。

●治療・日常の注意
治療では、ステロイド剤を塗り、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を服用する。水仕事をする時は、木綿の手袋の上からゴム手袋をして洗剤に触れないようにし、終わったらハンドクリームを塗っておくと良い。寝る前に、保湿剤や白色ワセリンなどを塗って皮脂膜をつくり、ガードしておこう。




脂漏性湿疹

●症状
頭、顔、脇の下、股など、皮脂腺が発達した場所にできる湿疹(皮膚炎)。赤ちゃんの頭や額によく見られるものと、成人に見られるものとがある。
湿疹には赤味があり、脂っぽく、境界がはつきりしている。やがてふけのように皮膚がカサカサと細かくむけ、かさぶたのようになる。子どもの場合、このかさぶたを放置しておくとさらに厚くなり、洗っても落ちにくくなるので早めの手当が不可欠。かゆみはあまりない。

●原因・治療・日常の注意
皮脂腺の多いところにできる湿疹。皮脂や、皮脂を利用して増殖する細菌、真菌の代謝産物が刺激となって発症する。毎日入浴し、皮膚を清潔に保っていれば治ることも多い。赤昧が強い時はステロイド剤を塗り、ビタミンB2、B6を服用する。かさぶたには亜鉛華単軟膏、親水軟膏を塗る。最近では、抗真菌剤(ケトユナゾール)を外用することも多い。




日本医療企画「ホスピタウン」より



このホームページのご意見・ご感想はこちらまでinfo@e.oisyasan.ne.jp

Copyright (C) 2000 e.oisyasan.ne.jp. All rights reserved