歯列矯正では歯に矯正装置をつけ、移動したい方向へ力を加えて圧迫し、ほんのわずかずつ動かしていきます。歯が動くのは、歯の周囲の組織構造によるものです。たとえば、歯を右に動かそうとするときには、矯正装置によって適当な力で右に押してやります。すると、歯の右側の歯根膜は圧迫され、左側の歯根膜は右へと引っ張られることになります。圧迫されたほうの歯根膜の細胞はその刺激によって周りの骨を吸収し、引っ張られた側の細胞はそのすき間を埋めようと周りの骨を増殖させます。こうして、歯根膜の細胞の新陳代謝を利用して歯を動かしていくことが歯列矯正です。
したがって、歯列矯正は歯を動かして治すことであり、歯を抜くことは決して本意ではありません。しかし、まったく抜かないともいえません。歯を抜くことは、患者さんと同様に歯科医にとっても無念なことなのですが、そのほうが残った歯の機能性、審美性がより高くなる場合には、やむを得ず抜くこともあります。
その際は、抜く前に上下歯列の型をとって歯並びの状態を調べ、矯正歯科独特の顎顔面全体のレントゲン写真を撮影して、あごの骨の大きさや形、歯が出ている方向、歯の出方などをチェックします。そしてこれらのデータをもとに十分に検討し、さらに患者さんの希望にどの程度沿うことができるかを加え、総合的に判断。十分に説明した上、納得を得てはじめて抜くことになります。
歯の本数を減らすかどうかの判断は、矯正専門医にとって非常に重要なものであり、腕の見せどころにもなります。
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